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東京地方裁判所 平成4年(ワ)13727号 判決

東京都練馬区東大泉一丁目一九番四三号

原告

株式会社タムラ製作所

右代表者代表取締役

田村逸也

埼玉県入間市大字狭山ケ原一六番地二

原告

タムラ化研株式会社

右代表者代表取締役

石井銀弥

原告ら訴訟代理人弁護士

中島敏

原告ら補佐人弁理士

佐野忠

東京都大田区下丸子二丁目二七番一号

被告

日本電熱計器株式会社

右代表者代表取締役

近藤権士

右訴訟代理人弁護士

石渡光一

深田鎮雄

右補佐人弁理士

中島昇

小林将高

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙第一目録記載の物件(以下「イ号物件」という。)及び第三目録記載の物件(以下「ロ号物件」という。)を製造し、譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。

二  被告は、その所有する前項の各物件、別紙第一及び第三目録記載の要件を具備する各部品及び右各部品製造用の金型を廃棄せよ。

三  被告は、原告株式会社タムラ製作所に対し、金六億七二〇〇万円及びこれに対する平成七年一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告タムラ化研株式会社に対し、金二億二四〇〇万円及びこれに対する平成七年一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  原告らは、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」といい、本件発明に係る明細書を「本件明細書」という。)を有している。

特許番号 第一四六九四一六号

発明の名称 プリント基板のはんだ付け方法

出願日 昭和五六年一〇月三日

公開日 昭和五八年四月七日

公告日 昭和六三年四月二日(昭六三-一五〇六三)

登録日 昭和六三年一一月三〇日

特許請求の範囲 別紙特許公報(以下「本件公報」という。)の特許請求の範囲記載のとおり。

2  本件発明の構成要件を分説すると、次のようになる(以下「構成要件A」などという。)。

A はんだ漕に収容した溶融はんだに加圧手段を設けることによりノズルに設けた多数の透孔を有する乱流波形成板のこれらの各透孔から溶融はんだを半波状に噴出させてこの半波状の溶融はんだの波頭を多数形成し、

B かつ上記乱流波形成板に対する溶融はんだの上記加圧手段による流動に基づいて上記波頭を乱流状態にして不規則に上下左右に変動させることによりプリント基板と電気部品のはんだ付け部に溶融はんだを供給する第一のはんだ付け工程と、

C 層流状態の波を形成する層流波形成手段又は平面浸漬手段の溶融はんだによりプリント基板と電気部品の第一のはんだ付け工程によるはんだ付け部に再度はんだ付けを施す第二のはんだ付け工程を有することを特徴とする

D プリント基板のはんだ付け方法

3  被告は、イ号物件及びロ号物件を製造販売している。

二  本件は、原告らが、被告に対し、本件特許権に基づいて、イ号物件及びロ号物件の製造、譲渡、譲渡のための展示の差止め並びに右の各物件、別紙第一及び第三目録記載の要件を具備する各部品及び右各部品製造用の金型の廃棄を求めるとともに、本件特許権侵害を理由とする不法行為による損害賠償として、原告株式会社タムラ製作所に対し、六億七二〇〇万円及びこれに対する年五分の割合による遅延損害金、原告タムラ化研株式会社に対し、二億二四〇〇万円及びこれに対する年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であり、原告らは、「被告が製造販売しているイ号物件は、別紙第二目録記載の方法(以下「イ号方法」という。)のみに使用するものであり、被告が製造販売しているロ号物件は、別紙第四目録記載の方法(以下「ロ号方法」という。)のみに使用するものであるところ、イ号方法及びロ号方法は、いずれも本件発明の技術的範囲に属する。また、被告は、国内のはんだ付け業者にイ号物件、ロ号物件を売り込み、イ号方法、ロ号方法に使用させているから、共同不法行為者としての責任がある。」と主張している。

被告は、イ号物件を使用するプリント基板のはんだ付け方法が、原告ら主張に係るイ号方法であることを争い、その方法について、別紙第五目録の方法又は同目録の第二工程のみの方法であると主張する(以下別紙第五目録の方法を「被告方法(一)」という。なお、イ号方法と被告方法(一)の相違点は別紙第二目録及び第五目録の直線で囲まれた部分である。)とともに、イ号物件を使用するプリント基板のはんだ付け方法が本件発明の技術的範囲に属することを争い、さらに、右のとおりイ号物件が第二工程のみの方法に使用されることからすると、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属する方法のみに使用されるものでないことは明らかであると主張する。また、被告は、ロ号物件を使用するプリント基板のはんだ付け方法が、原告ら主張に係るロ号方法であることを争い、その方法について、別紙第六目録の方法又は同目録の第二工程のみの方法であると主張する(以下別紙第六目録の方法を「被告方法(二)」という。なお、ロ号方法と被告方法(二)の相違点は別紙第四目録及び第六目録の直線で囲まれた部分である。)とともに、ロ号物件を使用するプリント基板のはんだ付け方法が本件発明の技術的範囲に属することを争い、さらに、右のとおりロ号物件が第二工程のみの方法に使用されることや後記三2(二)(2)の事実からすると、ロ号物件は本件発明の技術的範囲に属する方法のみに使用されるものではないと主張する。

三  当事者の主張

1  イ号方法について

(一) 原告らの主張

(1) イ号方法は、次のように分説することができる(以下「イ号方法の構成a」などという。)。

a はんだ槽に収容した溶融はんだを一次チャンバー10に設けた一次噴流モータによる加圧手段と二次チャンバー46に設けた二次噴流モータによる加圧手段とによって流動させ、一次チヤンバーにおいて、溶融はんだを整流板A22および整流板B23を介して一次吹口本体14の多数のはんだ噴流口18(長さ約16mm×内径約14mm)から噴流させ、さらに該一次吹口本体14の上部に摺動可能に取付けた半円状のスイングノズル17を、スイング用モータ32を駆動することによりプリント基板の搬送方向と直交する方向に連続的に摺動往復移動(摺動距離約10-12mm)させながら、スイングノズル17の切欠部25に有する吹口ノズル27の長手方向に二列に千鳥状に多数設けられた比較的小さな長孔(長さ約12mm×内径約4mm)であってプリント基板の搬送方向に順行する方向および逆行する方向に交互に傾斜がつけられた(隣り合う長孔の軸線は約54-55度の角度で交差する)ハンダ噴流孔26から溶融はんだを山状に噴出させてこの山状の溶融はんだの峰を多数形成し、

b かつ前記吹口ノズルに対する溶融はんだの前記モータによる加圧手段による流動に基いて前記峰の位置、高さ、幅および数など峰の形状をたえず不規則に変動させて流動させるとともに前記スイングノズル17の摺動往復移動により前記峰を左右に平行移動させプリント基板とこれに搭載した電気部品のはんだ付け部に溶融はんだを供給する第一のはんだ付け工程と、

c 二次チャンバーにおいて、整流板53を介してスライド板55と、これに対置する入側フォーマー54との間のスリットにより層流状態の波を形成する二次吹口本体47の溶融はんだによりプリント基板と電気部品の第一のはんだ付け工程によるはんだ付け部に再度はんだ付けを施す第二のはんだ付け工程を有する

d プリント基板のはんだ付け方法

(2) イ号方法における「多数設けられたハンダ噴流孔26」は、本件発明における「ノズルに設けた多数の透孔」に該当し、またイ号方法における吹口ノズル27のハンダ噴流孔26を形成している板状部分は本件発明における「乱流波形成板」に該当する。イ号方法において、右ハンダ噴流孔26から「溶融はんだを山状に噴出させてこの山状の溶融はんだの峰を多数形成」するが、イ号方法における「山状の溶融はんだの峰」は本件発明における「半波状の溶融はんだの波頭」に該当し、これを「多数形成」する点においても両者は共通である。したがって、イ号方法の構成aは、本件発明の構成要件Aを充足する。

(3) 本件発明における「乱流」とは、「半波状の波頭を多数形成し、該波頭が不規則に上下左右に変動すること、すなわち、波頭の高さ、峰の数、変動の程度等がたえず不規則に変わること」を意味する。イ号方法においては、「峰の位置、高さ、幅および数など峰の形状をたえず不規則に変動させて流動させる」が、これは本件発明における「波頭を乱流状態にして不規則に上下左右に変動させること」に該当し、かつ、このような変動が吹口ノズルすなわち乱流波形成板に対するモータによる加圧手段に基づいて生じていることも両者共通である。なお、イ号方法において、右変動が二列に設けられたハンダ噴流孔26から噴出したはんだの波頭が相互に干渉することによって起こるとしても、それは「加圧手段による流動」に基づくものということができる。したがって、イ号方法の構成bは、本件発明の構成要件Bを充足する。

(4) イ号方法における「整流板53を介してスライド板55と、これに対置する入側フォーマー54と間のスリットにより層流状態の波を形成する二次吹口本体」は、層流状態の波を形成するものであるから、本件発明における「層流波形成手段」に該当し、この層流状態の波は「第一のはんだ付け工程によるはんだ付け部に再度はんだ付けを施す」ためのものである。したがって、イ号方法の構成cは、本件発明の構成要件Cを充足する。

(5) よって、イ号方法は、本件発明の技術的範囲に属する。

(6) なお、イ号方法においてはスイングノズル17を摺動往復移動させるが、峰の形状をたえず不規則に変動させて流動させることは、右吹口ノズルに対する溶融はんだのモータによる加圧手段による流動によって達成されており、この摺動往復移動は、この峰を左右に平行移動させるだけにすぎず、右スイングノズルを摺動往復移動させても停止させても実質的に異なるところはないから、右摺動往復移動は、イ号方法が本件発明の構成要件を充足しないことの根拠となるものではない。

また、イ号方法において、溶融はんだの流速の大きさが整えられ、流れの向きが揃えられ、所定の角度をもって噴出するということはない。イ号方法においても、本件発明におけるのと同様に、溶融はんだは、峰の形状をたえず不規則に変動させて流動しているのであって、溶融はんだが峰の形状をたえず不規則に変動させて流動していることにより、すべての被はんだ付け部を溶融はんだで濡らすことができることは、本件発明とイ号方法とで変わらない。

(二) 被告の主張

(1) 被告方法(一)は、次の理由により、本件発明の構成要件Aを充足しない。

〈1〉 本件発明においては、加圧手段から噴出孔(乱流波形成板の透孔)に至る間において、加圧された溶融はんだを自由に流動させる。これに対し、被告方法(一)においでは、加圧手段から噴出孔(ハンダ噴流孔26)に至る間において、加圧された溶融はんだを、まず整流板A22及び整流板B23を介して流動させ、次いで一次吹口本体14の多数のはんだ噴流口18(長さ約16mm×内径約14mm)から噴流させる。そのため、本件発明においては、加圧手段から噴出孔に至る間に、溶融はんだの流速の大きさが整えられたり、流れの向きが揃えられることはないが、被告方法(一)においては、溶融はんだの流速の大きさが整えられ、流れの向きが揃えられる。

〈2〉 本件発明においては、溶融はんだを、乱流波形成板の透孔から半波状に噴出させるのみである。これに対し、被告方法(一)においては、スイングノズル17の切欠部25に有する吹口ノズル27の長手方向に二列に千鳥状に多数設けられた比較的小さな長孔(長さ約12mm×内径約4mm)であってプリント基板の搬送方向に順行する方向および逆行する方向に交互に傾斜がつけられた(隣り合う長孔の軸線は約54-55度の角度で交差する)ハンダ噴流孔26から噴出させる。そのため、本件発明においては、溶融はんだは、流れの向きが揃えられることはなく、一定の角度をとって噴出することもないが、被告方法(一)においては、流れの向きが揃えられ、交互に一定の角度をとって噴出する。

〈3〉 本件発明においては、溶融はんだを、半波状の波頭を多数形成するように、噴出孔から噴流させるのみである。これに対し、被告方法(一)においては、半円状のスイングノズル17を、スイング用モータ32を駆動することによりプリント基板の搬送方向と直交する方向に連続的に摺動往復移動(摺動距離約10-12mm)させながら、溶融はんだを多数の噴出孔(ハンダ噴流孔26)から噴流させる。そのため、本件発明においては、噴出孔から噴出した噴流は、その方向が定まらないが、被告方法(一)においては、噴出孔から噴出した噴流は、スイングノズル17の移動に応じて規則的に変化する傾斜角度を持つ流れになり、往復移動の向きが変わると傾斜角度は逆向きになるのであって、被告方法(一)では、このように、特定の方向に噴流している。

(2) 本件発明においては、被はんだ付け部に溶融はんだを供給し、そこにたまったガス、空気等を逃がしてはんだ付けをするために、「乱流波形成板に対する溶融はんだの加圧手段による流動」に基づいて「溶融はんだの波頭を乱流状態にして不規則に上下左右に変動させる」という手段を採用している。ここでいう「乱流状態」は、「溶融はんだの波頭を総合的に観察した場合に、その形状もたえず変動し、また、頂部の高度、位置関係もたえず上下左右に変動している状態」、「波頭が少なくともチップ部品の狭い間隙に入り込み得て、該間隙に閉じこめられたガス等を逃がさせるに足るだけの大きさをもって不規則に上下左右に変動している状態」を意味する。被告方法(一)においては、溶融はんだの波頭が、右のような意味における乱流状態になることはない。

また、被告方法(一)においては、波頭の変動が生じるとしても、それは、長孔を二列にしたことによるものであるから、「溶融はんだの加圧手段による流動」に基づくものではない。

被告方法(一)においては、被はんだ付け部に溶融はんだを供給し、そこにたまったガス、空気等を逃がしてはんだ付けをするために、整流板A22、整流板B23、はんだ噴流口18及び連続的に往復運動するハンダ噴流孔26によって「段階的に流速の大きさが整えられ、その向きが揃えられた溶融はんだの噴流を連続的に往復移動させながら所定の角度をもって山状に噴出させる」という手段を採用している。その結果、本件発明においては、一部の被はんだ付け部に溶融はんだが届かないということが起こりうるが、被告方法(一)においては、すべての被はんだ付け部を溶融はんだで濡らすことができる。

したがって、被告方法(一)は、本件発明の構成要件Bを充足しない。」

2  ロ号方法について

(一) 原告の主張

(1) ロ号方法は、次のように分説することができる(以下「ロ号方法の構成a」などという。)。

〈1〉 a、b、dは、右1(一)(1)(イ号方法の分説)a、b、dと同じ。

〈2〉 cは、次のとおりである。

「二次チャンバーにおいて、整流板53を介してスライド板55と、これに対置する入側フォーマー54との間のスリットにより流速を可変とした平滑な流れを形成する二次吹口本体の溶融はんだによりプリント基板と電気部品の第一のはんだ付け工程によるはんだ付け部に再度はんだ付けを施す第二のはんだ付け工程を有する」

(2) 本件発明の構成要件A、Bについての対比は、右1(一)(2)(3)(イ号方法についての対比)と同じ。

(3) ロ号方法においては、溶融はんだは、はんだ層表面のなめらかさを保ちつつ、基板に接触し、穏やかな放物線を描いて流下するから、層流状態の波を形成し、本件発明における「層流波形成手段」に該当する。そして、この層流状態の波は「第一のはんだ付け工程によるはんだ付け部に再度はんだ付けを施す」ためのものである。したがって、ロ号方法の構成cは、本件発明の構成要件Cを充足する。

(4) よって、ロ号方法は、本件発明の技術的範囲に属する。

(二) 被告の主張

(1) 本件発明の構成要件A、Bについての対比は、右1(二)(1)(2)(イ号方法についての対比)と同じ。

(2) ロ号方法においては、第二のはんだ付け工程において、ジェット噴流波を形成することがあるが、これは、層流状態の波ではないから、その場合には、本件発明の構成要件Cに該当しない。したがって、ロ号物件は、本件発明の実施にのみ使用するものではない。

3  損害について

(一) 原告の主張

原告株式会社タムラ製作所は、本件発明の実施品を製造販売している。

本件特許の公告日から平成四年四月二日までの間において、被告がイ号物件及びロ号物件の製造販売によって得た利益の額は、八億九六〇〇万円を下らない。

したがって、原告株式会社タムラ製作所は、右期間に少なくとも八億九六〇〇万円から原告タムラ化研株式会社の実施料相当額二億二四〇〇万円を差し引いた六億七二〇〇万円の損害を被った。

原告タムラ化研株式会社は、右期間において、実施料相当額二億二四〇〇万円の損害を被った。

(二) 被告の主張

原告の右主張は争う。本件特許の公告日から平成四年四月二日までの間において、被告は、イ号物件及びロ号物件を、合計一一八五台製造販売し、その販売額は、八七億二六八三万五六五三円である。

第三  当裁判所の判断

一  イ号物件及びロ号物件を使用するプリント基板のはんだ付け方法が本件発明の技術的範囲に属するかどうかについて判断するに、まず、本件発明の構成要件Bの「上記乱流波形成板に対する溶融はんだの上記加圧手段による流動に基づいて上記波頭を乱流状態にして不規則に上下左右に変動させる」という部分について検討する。

1  本件明細書の「発明の詳細な説明」には、従来技術、本件発明の目的、本件発明の効果、実施例について、次のような記載がある。

(一) 従来技術(本件公報第14図)では、本件公報第13図(プリント基板)において、「チップ部品3a-3eのそれぞれの間隔1が0・5-5mm程度に近接している場合には、図示斜線部のところでは、第14図に示す噴出はんだは層流状態で流れ、その弧長がチップ部品の間隔1より長い滑らかな弧面状であることが多いので、接触しようとするはんだとの間にはんだ付け時に発生するガスあるいは空気がたまり、これらによりはんだは銅箔および電極に対して濡れようとするのを妨げられる。そのため、斜線部のところにはフラックスの樹脂がたまったままの状態になるので、チップ部品3a-3eの電極ははんだ付けされず、はんだ付け不良となる。」

(本件公報2欄15行ないし3欄2行)

(二) 「本発明は、実装密度の高いプリント基板に対する電気部品のはんだ付けを行なうときに溶融はんだを狭い間隔にも供給できるようにしたはんだ付け方法を提供することにある。」(本件公報3欄43行ないし4欄2行)

(三) 「本発明によれば、溶融はんだを加圧手段により乱流形成板から半波状に噴出させて波頭を乱流状態とし、かつこの波頭を上下左右に変動させるようにしたので、近接する電気部品のはんだ付け部とその間の銅箔に対して溶融はんだを良く濡らすことができ、はんだ付けの不良品の発生を少なくできる。特に、プリント基板にチップ部品を搭載する表面実装の場合で、そのチップ部品間隔の小さいものに対してはこの間隔に溶融はんだが入り込めるため、ここに発生したガスや空気が逃がされ、その結果フラックスが押し退けられて溶融はんだが所定の場所に良く濡れ、はんだ付け不良を顕著に少なくできる。」(本件公報8欄23行ないし35行)

(四) 本件公報第1図、第2図の構成を有する実施例において、「はんだ漕4'に溶接はんだを収容し、図示省略した羽根車を作動して溶融はんだをノズル5'・・・から噴出させると、ノズル5'は第3図・・・のような波状の溶融はんだを噴出する。この状態で、・・・プリント基板を・・・溶融はんだに接触させる。ノズル5'の乱流波形成板6の噴出口7、7、・・・から噴出された溶融はんだは、半波状に噴出され、波頭はいくつかの小さな峰ができたように乱流状態になり、この波頭は波底部の溶融はんだの流動により絶えず不規則に上下左右に変動する。上記波頭の高さ、峰の数、変動の程度は羽根車の調節による溶融はんだの噴出圧により変わる。・・・チップ部品3a、3b、3c、3d、3eの間の図示斜線部分に溶融はんだの波の波頭が入り込み、この波頭の乱流状態により斜線部に閉じ込められたガスあるいは空気が抜かれるとともに溶融はんだが銅箔及びチップ部品3a-3eのそれぞれの電極に濡れるようになる。この際波頭は上下左右に変動するので、上記の閉じ込めされた(「閉じこめられた」の誤記であると認められる。)ガスあるいは空気はその逃散路が確保され、溶融はんだはこれらの逃れたあとに侵入するのでよく濡れることができる。」(本件公報4欄36行ないし5欄19行)

2(一)  前記第二の一の事実と右1認定の事実を総合すると、本件発明は、「溶融はんだの波頭を乱流状態とし、この波頭を上下左右に変動させるようにすること」により、プリント基板上のチップ部品の間隔の狭いところにも溶融はんだが入り込むようにしたものであって、右「乱流状態」とは、溶融はんだの波頭の高さ、峰の数等が不規則に変わり、波頭が絶えず不規則に上下左右に変動することを意味するものと解される。そして、本件発明においては、「乱流波形成板に対する溶融はんだの加圧手段による流動」に基づいて、溶融はんだの波頭を「乱流状態」とするのであるが、右1認定の事実によると、「乱流波形成板に対する溶融はんだの加圧手段による流動」は、「乱流波形成板に対する溶融はんだの噴出圧による流動」を意味しているものと解される。

(二)  ところで、「基づいて」という語は、「基として起る。基礎にする。よりどころにする。」という意味を持つ言葉であって(広辞苑(第四版)二五四四頁、「もとづく」の項)、物事が生じる原因を述べるときに用いられる言葉であるから、本件発明の特許請求の範囲の記載を文字どおり解すると、「乱流波形成板に対する溶融はんだの噴出圧による流動」を原因として「乱流状態」が生じるという意味に解することができる。また、右1(四)の実施例において、「乱流状態」が生じる原理を考えると、羽根車を作動して溶融はんだをノズルから噴出させると、溶融はんだが半波状に噴出し、その頂部が流動圧が失われた時点で重力によって崩れ落ちることによって「乱流状態」が生じているものと認められ、「乱流状態」は、まさに「乱流波形成板に対する溶融はんだの噴出圧による流動」によって生じているということができる。本件明細書及び図面には、それ以外の原因によって生じる「乱流状態」についての記載はない。さらに、本件発明において、溶融はんだを噴出させれば、「乱流波形成板に対する溶融はんだの噴出圧」に関係なく溶融はんだが乱流状態になるといえないことは技術的に明らかである。

以上を総合すると、特許請求の範囲の「乱流波形成板に対する溶融はんだの上記加圧手段による流動に基づいて上記波頭を乱流状態にして不規則に上下左右に変動させる」との記載は、「乱流波形成板に対する溶融はんだの噴出圧」を適当に選択することによって、右「噴出圧による流動」を原因とする「乱流状態」を発生させるという構成を規定したものであって、本件発明においては、「乱流状態」は、このような「乱流波形成板に対する溶融はんだの噴出圧による流動」を原因として生じるものでなければならないというべきである。

(三)  二列に設けられたハンダ噴流孔から噴出したはんだの波頭が相互に干渉し合って生じる乱流状態は、右「乱流波形成板に対する溶融はんだの噴出圧による流動」とは別の原因によるものであるから、本件発明における「加圧手段による流動」に基づく「乱流状態」といえないものであるが、そのことは、以下の各点に照らしても明らかであるということができる。すなわち、右(二)認定のとおり、本件公報には「乱流状態」が生じる原理について実施例の記載以外にこれを示唆する記載はない。また、隣接する波頭との干渉が生じるためには、乱流波形成板の各透孔が、波頭の干渉が生じるように位置していることを要するものであるところ、乱流波形成板における各透孔の位置に関する本件明細書の記載をみると、特許請求の範囲に「多数の透孔を有する乱流波形成板」と記載されているのみで各透孔の位置関係は全く示されていない。さらに、前記1(三)認定のとおり、本件発明の効果には、「本発明によれば、溶融はんだを加圧手段により乱流形成板から半波状に噴出させて波頭を乱流状態とし、かつこの波頭を上下左右に変動させるようにしたので、」と記載されており、「波頭を乱流状態とし、上下左右に変動させるようにすること」という本件発明の構成を規定するものは「溶融はんだを加圧手段により乱流形成板から半波状に噴出」させることだけであり、他の事項は右構成を規定するものとされていない。

なお、本件明細書には、実施例として「噴出口の形状のみならず大きさ、配列、個数、乱流波形成板の板厚、さらに溶融はんだの噴出圧を変え、またこれらを組み合せることによって・・・所望な溶融はんだの乱流波が得られる。」(本件公報8欄14行ないし21行)との記載があるが、これは、乱流波形成板に対する溶融はんだの噴出圧による流動を原因として生じる乱流状態を、噴出口の形状、大きさ、配列、個数等によって変化させることができることを記載したものと解されるから、右記載は右認定を左右するものではない。

3  そこで、次に、イ号物件及びロ号物件を使用するプリント基板のはんだ付け方法について見ると、これらの方法においては、「はんだ槽に収容した溶融はんだを一次チャンバー10に設けた一次噴流モータによる加圧手段・・・によって流動させ、一次チャンバーにおいて、溶融はんだを整流板A22および整流板B23を介して一次吹口本体14の多数のはんだ噴流口18(長さ約16mm×内径約14mm)から噴流させ、さらに該一次吹口本体14の上部に摺動可能に取付けた半円状のスイングノズル17・・・の切欠部25に有する吹口ノズル27の長手方向に二列に千鳥状に多数設けられた比較的小さな長孔(長さ約12mm×内径約4mm)であってプリント基板の搬送方向に順行する方向および逆行する方向に交互に傾斜がつけられた(隣り合う長孔の軸線は約54-55度の角度で交差する)ハンダ噴流孔26から」溶融はんだを噴出させる(以上の部分は当事者間に争いがない。)。そして、証拠(乙一七、三五、検乙一、四)と弁論の全趣旨によると、イ号物件、ロ号物件においては、二列に千鳥状に設けられたハンダ噴流孔26の一列を塞いだ場合には、ハンダ噴流孔26から噴出したはんだは、噴出時の状態をほぼ維持し、その流線が常に一定方向を向いた放物線状を呈し、隣接する流れと一定の位置関係を保持して流れることが認められる。したがって、イ号物件、ロ号物件において、二列に設けられたハンダ噴流孔26の一列を塞いだ場合には、「乱流状態」は生じないものということができる。

証拠(甲六、七、一五、二四、検甲三、五)によると、イ号物件、ロ号物件において、二列に千鳥状に設けられたハンダ噴流孔26の一列を塞がないで、二列のハンダ噴流孔26から溶融はんだを噴出させた場合には、噴出した溶融はんだの波頭が変動することがあるものと認められるが、二列に設けられたハンダ噴流孔26の一列を塞いだ場合の右実験結果に照らすと、二列のハンダ噴流孔26から溶融はんだを噴出させた場合における噴出した溶融はんだの波頭の変動は、向かい合ったハンダ噴流孔26から噴出した溶融はんだが干渉し合うことによって生じるものと認められる。そして、この変動を「乱流状態」ということができるとしても、それは、すでに判示したとおり、「乱流波形成板に対する溶融はんだの噴出圧による流動」を原因として生じているということはできない。

その他、イ号物件及びロ号物件を使用するプリント基板のはんだ付け方法において、「乱流状態」が「乱流波形成板に対する溶融はんだの噴出圧による流動」を原因として生じることを認めるに足りる証拠はない。

4  よって、イ号物件及びロ号物件を使用するプリント基板のはんだ付け方法は、本件発明の構成要件Bを充足しないから、本件発明の技術的範囲に属することはない。

二  以上の次第で、本訴請求は理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)

〈19〉日本国特許庁 JP 〈11〉特許出願公告

〈32〉特許公報(B2) 昭63-15063

〈51〉Int.Cl.4B 23 K 1/08 H 05 K 3/34 識別記号 庁内整理番号 A-8019-4E M-6736-5F 〈24〉〈44〉公告 昭和63年(1988)4月2日

発明の数 1

〈54〉発明の名称 プリント基板のはんだ付け方法

前置審査に係属中 〈21〉特願 昭56-156950 〈65〉公開 昭58-58795

〈22〉出願 昭56(1981)10月3日 〈43〉昭58(1983)4月7日

〈72〉発明者 石井銀弥 埼玉県所沢市緑町3丁目13番8号

〈72〉発明者 宮野由廣 埼玉県狭山市大字北入曽1336番地

〈71〉出願人 石井銀弥 埼玉県所沢市緑町3丁目13番8号

〈71〉出願人 宮野由廣 埼玉県狭山市大字北入曽1336番地

〈74〉代理人 弁理士 佐野忠

審査官 木村孔一

〈56〉参考文献 特開 昭49-49159(JP、A) 特開 昭51-117949(JP、A)

実開 昭56-87258(JP、U) 実公 昭56-3100(JP、Y2)

〈57〉特許請求の範囲

1 はんだ槽に収容した溶融はんだに加圧手段を設けることによりノズルに設けた多数の透孔を有する乱流波形成板のこれらの各透孔から溶融はんだを半波状に噴出させてこの半波状の溶融はんだの波頭を多数形成し、かつ上記乱流波形成板に対する溶融はんだの上記加圧手段による流動に基づいて上記波頭を乱流状態にして不規則に上下左右に変動させることによりプリント基板と電気部品のはんだ付け部に溶融はんだを供給する第1のはんだ付け工程と、層流状態の波を形成する層流波形成手段又は平面浸漬手段の溶融はんだによりプリント基板と電気部品の第1のはんだ付け工程によるはんだ付け部に再度はんだ付けを施す第2のはんだ付け工程を有することを特徴とするプリント基板のはんだ付け方法。

発明の詳細な説明

産業上の利用分野

本発明は、プリント基板のはんだ付け方法に関するものであつて、特にプリント基板に対する電気部品の実装間隔が5mm以下の高密度実装タイプのプリント基板のはんだ付け方法に関する。

従来の技術

電気部品をプリント基板に取付けるには、例えば第13図に示すように基板本体1の上の回路パターン2の銅箔にリード線を有しないリードレスのチツプ部品3a、3b、3c、3d、3eをはんだ付けすることが行われる。このはんだ付けを行うには、まず基板本体1に上記チツプ部品3a、3b、3c、3d、3eを接着剤により仮固定したプリント基板にフラツクスを塗布して予備加熱しておく。つぎに、第14図に示すようにはんだ槽4にノズル5を設け、はんだ槽4内のはんだをノズル5の矩形ノズル口から噴出させる。そして上記プリント基板をチツプ部品が下側になるようにして噴出しているはんだに接触させると上記チツプ部品3a~3eはそれぞれの端部の電極が回路パターン2にはんだ付けされる。

発明が解決しようとする問題点

ところが、第13図において、チツプ部品3a~3eのそれぞれの間隔1が0.5~5mm程度に近接している場合には、図示斜線部のところでは、第14図に示す噴出はんだは層流状態で流れ、その弧長がチツプ部品の間隔1より長い滑らかな弧面状であることが多いので、接触しようとするはんだとの間にはんだ付け時に発生するガスあるいは空気がたまり、これらによりはんだは銅箔および電極に対して濡れようとするのを妨げられる。そのため、斜線部のところにはフラツクスの樹脂がたまつたままの状態になるので、チツプ部品3a~3eの電極ははんだ付けされず、はんだ付け不良となる。特に第13図に示すようなチツプ部品を搭載するプリント基板の場合には、リード線のある部品を取付けるプリント基板のようにリード線挿入孔がないので、上記のように斜線部のところにたまつた空気は全く逃れることができず、これが原因ではんだ付け不良を起こし易い。リード線を有する部品をリード線挿通孔を有するプリント基板に取付ける場合でも、リード線とその挿通孔とのクリアランスが小さい場合には同様にガス抜きが出来ない。また、このクリアランスがある程度大きくても、リード線が挿通孔に斜めに挿入されるときはガス抜きができない場合があり、この場合にはさらに挿通孔中の空気が供給したはんだを通して抜けることにより盛られたはんだに抜け穴が生じることがある。

このように電気部品をプリント基板に対してはんだ付けする際にはんだ付け不良を生しると、その部分ははんだごてによる手作業によりはんだつけをして修正しなければならず、これは狭い間隔にはんだを供給し、鋸箔を濡らすようにしなければならないので極めて作業性が悪い。

このようなはんだ付け不良を少なくするために、実公昭56-3100号公報には第15図に示すように噴流筒11の開口12の周辺に設けたガイド13の上面に造波用突起15をはんだの流れ方向と直角に連続して多数設け、これにより細かな均一な波が得られるようにしたものが示されている。

しかしながら、これはいわば一方向の層流の波と言つてよいようなもので、立体的に波状であつても時間的に変動はなく、したがつて、その波頭は時間的に変動する乱流状態にはなく、さらに噴出させた後の溶融はんだの流れを利用するものであるから、この流れの個々の部位に溶融はんだの噴出状態の影響を直接与えることができない。このため、波の圧力の変動、凹凸が小さ過ぎてチツプ部品の小さな間隙に溶融はんだを押し込み難く、たとえ押し込んでも時間的変動がないから閉じ込められたガスや空気を逃がすことができず、結局溶融はんだをはんだ付け部によく濡らすことができない。

したがて、本発明は、実装密度の高いプリント基板に対する電気部品のはんだ付けを行なうときに溶融はんだを狭い間隔にも供給できるようにしたはんだ付け方法を提供することにある。

問題点を解決するための手段

本発明は、上記問題点を解決するために、はんだ槽に収容した溶融はんだに加圧手段を設けることによりノズルに設けた多数の透孔を有する乱流波形成板のこれらの各透孔から溶融はんだを半波状に噴出させてこの半波状の溶融はんだの波頭を多数形成し、かつ上記乱流波形成板に対する溶融はんだの上記加圧手段による流動に基づいて上記波頭を乱流状態にして不規則に上下左右に変動させることによりプリント基板と電気部品のはんだ付け部に溶融はんだを供給する第1のはんだ付け工程と、層流状態の波を形成する層流波形成手段又は平面浸漬手段の溶融はんだによりプリント基板と電気部品の第1のはんだ付け工程によるはんだ付け部に再度はんだ付けを施す第2のはんだ付け工程を有することを特徴とするプリント基板のはんだ付け方法を提供するものである。

実施例

次に本発明の一実施例を第13図および第14図を参照しつつ第1図ないし第3図に基づいて説明する。

第1図は本実施例に使用する装置の一部を切り欠いた斜視図であり、はんだ槽4’中に第14図に示す層流波形成手段としてのノズル5と、乱流波形成板を有するノズル5’されている。

ノズル5’は第2図に示すように下方が拡開された断面台形状に形成され、上端ノズル口に乱流波形成板6が取付けられている。この乱流波形成板6には、多数の噴出口7、7……が設けられている。これらの噴出口7、7……の大きさは、これらより溶融はんだを噴出させたときその波の波頭が第13図に示す斜線部の間隙に入り込めるようなものである。

このような構成において、はんだ槽4’に溶融はんだを収容し、図示省略した羽根車を作動して溶融はんだをノズル5’、ノズル5から噴出させると、ノズル5’は第3図、ノズル5は第14図のような波状の溶融はんだを噴出する。この状態で第13図に示すチツプ部品3a~3eを接着剤により仮固定したプリント基板を矢印で示すように第1工程でノズル5’、第2工程でノズル5の溶融はんだに接触させる。

ノズル5’の乱流波形成板6の噴出口7、7……から噴出された溶融はんだは、半波状に噴出され、波頭はいくつかの小さな峰ができたように乱流状態になり、この波頭は波底部の溶融はんだの流動により絶えず不規則に上下左右に変動する。上記波頭の高さ、峰の数、変動の程度は羽根車の調節による溶融はんだの噴出圧により変わる。このようにしてできた溶融はんだの波に第13図に示すプリント基板を第14図で説明したように溶融はんだに接触させると、チツプ部品3a、3b、3c、3d、3eの間の図示斜線部分に溶融はんだの波の波頭が入り込み、この波頭の乱流状態により斜線部に閉じ込めされたガスあるいは空気が抜かれるとともに溶融はんだが銅箔及びチツプ部品3a~3eのそれぞれの電極に濡れるようになる。この際波頭は上下左右に変動するので、上記の閉じ込められたガスあるいは空気はその逃散路が確保され、溶融はんだはこれらの逃れたあとに侵入するのでよく濡れることができる。

このようにしてノズル5’によりはんだ付けを施されるが、この際溶融はんだの乱流波に接触している部分が溶融はんだから急に離反するときはんダがツララのように垂れ下がることがある。また稀にははんだのトンネル、シヨート、ブリツジが生じていることもある。このようにツララ等が生じているものをノズル5の溶融はんだに接触させると、ノズル5からの溶融はんだの波は層流状態であるのでツララ等が溶解される。そしてこの溶解されたあとの部分をゆつくり離反させると、今度はツララ等が生じないようにできる。このようにノズル5は仕上げに用いられる。

次に本実施例に使用のノズル5’を用いたはんだ付け方法と、従来の第14図、第7図図示左に示す平面噴流装置及び第15図に示す装置(実公昭56-3100号公報)を用いたはんだ付け方法、第16図に示す内側孔を外側孔より小さくしたフイルターfを用いて溶融はんだの噴出圧を一定にした装置を用いたはんだ付け方法(特開昭51-117949号公報)、さらには第15図と第16図を組み合わせた第17図に示す装置を用いた方法によりチツプ部品をプリント基板にはんだ付けする際のはんだの不濡れ数をチツプ部品の近接距離1を変えたものについて実験した結果を表に示す。

なお、不濡れ数とは、プリント基板上に第13図に示すパターンでチツプ部品を配置し、1つのチツプ部品が2つの電極をもつものとして電極100個のうち、銅箔にはんだ付けされない電極数をいう。この場合、はんだ付け時間は2秒ないし3秒にした。

また、上記実験において発生したツララの数、ブリツジの数を示し、ノズル5’についてはノズル5を併用したときの場合も示した。

〈省略〉

この結果から、本実施例のものは他のいずれの装置を用いたものより不濡れ数が少なく、0であることがわかり、これは溶融はんだの波頭の乱流状態がいかに重要な要素であるかを明確に示すものであり、また、これにより生じるツララ等は層流状態のはんだ波により修正されることが良く分かる。

上記実施例では乱流波形成板6はノズル5’の上端に設けたが、第4図のように乱流波形成板6’をノズル効口の端縁から例えば約30mm以内の下方に設け、溶融はんだの波頭だけがノズル口の端縁より上方に突出するようにしても良い。また、第5図に示すように、乱流波形成板6”を凸状の弧状に形成しても良い。

また、第7図に示すようにはんだ槽4”の溶融はんだをはんだノズル8から攪拌機9により噴流させる平面噴流装置(例えば特開昭52-129972号公報の第1図)を層流波形成手段として用いるとともに、この平面噴流装置のノズルに例えば乱流波形成板6を設けたものを並設し、矢印のようにプリント基板を搬送してはんだ付けしたり、あるいは第8図に示すようにはんだ槽4”の溶融はんだをノズル8’から噴流ポンプ9’により噴流させる平面噴流装置(例えば電子技術(1981年、vol23、No.7臨時増刊号(昭和56年6月30日刊工業新聞社発行))の第48頁及び第49頁の図f及びその説明)を層流波形成手段として用いるとともに、この平面噴流装置のノズルに例えば乱流波形成板6を設けたものを並設し、矢印のようにプリント基板を搬送してはんだ付けしても良い。この際、乱流波形成板6の代わりに乱流波形成板6”を用いることもできる。

なお、第6図に示すように整波板5’a、5’aを乱流波形成板6の両側縁に付設しても良い。この場合片方だけに整波板5’aを設けても良い。このように整波板5’aを設けると、プリント基板が溶融はんだから離反するとき、溶融はんだの波が整えられ、ツララ、トンネル、シヨート等が除かれ易い。

また、上記実施例では層流波形成手段としてノズル5用いたが、この代わりに第9図イに示すようにはんだ槽4〓に溶融はんだを収容した平面浸漬装置、あるいは第9図口に示すようにはんだ槽4〓の溶融はんだを上下動できる移動槽10により汲み上げられるようにした平面浸漬装置(例えば電子技術(1981年、vol23、No.7 臨時増刊号(昭和56年6月30日日刊工業新聞社発行))の第48頁及び第49頁の図a、b及びその説明)を用い、ノズル5’と並設し、矢印のようにプリント基板を搬送しはんだ付けするようにしても良い。また、第7図、第8図各左側に示す平面噴流装置のノズル口の一部に上記の乱流波形成板を取り付けてノズル口の残部の平面噴流はんだを層流波形成手段として用いても同様な効果が得られる。

また、第10図に示すように、ノズル5”のノズル口5”aの半幅に乱流波形成板6〓を設け、他の半幅を矩形ノズル口5〓bとしても良く、また、第11図に示すように、ノズル5〓のノズル口5〓aの幅の中央に乱流波形成板6〓を設け、この両側に矩形ノズル口5〓b、5〓cを設けても良い。なお、上記において第4図および第5図に示す構成のノズルをそれぞれの乱流波形成部に使用しても良い。

上記実施例のうち、第1図、第2図、第4図、第5図、第6図、第7図、第8図~第11図において、それぞれの乱流波形成板6、6’、6”、6〓、6〓に形成した円形の噴出口の代わりに第12図イ、ロ、ハに示す噴出口を形成しても良い。異種形状の粗合わせは、はんだの波形の変動を起こし易くする。また、噴出口の形状のみならず大きさ、配列、個数、乱流波形成板の板厚、さらに溶融はんだの噴出圧を変え、またこれらを組み合わせることによつてプリント基板のパターン形状や、部品リードの密集状態、リードレス部品の実装密度や配置状態に最適なはんだ付けが得られるような所望な溶融はんだの乱流波が得られる。

発明の効果

本発明によれば、溶融はんだを加圧手段により乱流形成板から半波状に噴出させて波頭を乱流状態とし、かつこの波頭を上下左右に変動させるようにしたので、近接する電気部品のはんだ付け部とその間の銅箔に対して溶融はんだを良く濡らすことができ、はんだ付けの不良品の発生を少なくできる。特に、プリント基板にチツプ部品を搭載する表面実装の場合で、そのチツプ部品間隔の小さいものに対してはこの間隔に溶融はんだが入り込めるため、ここに発生したガスや空気が逃がされ、その結果フラツクスが押し退けられて溶融はんだが所定の場所に良く濡れ、はんだ付け不良を顕著に少なくできる。このようにして電気部品のはんだ付け部及び銅箔に対するはんだの濡れを良くした後、溶融はんだの層流の波又は平面浸漬により処理すれば、乱流波により生じることのあるツララ等を溶融除去して仕上げをすることができ、はんだの濡れとそれにともなうツララ等の除去の両方をそれぞれに最適な装置の組み合わせにより調和して行うことができ、全体として良質なはんだ付けを効率良く行うことができる。

図面の簡単な説明

第1図は本発明の一実施例に使用される装置の一部切り欠き斜視図、第2図はその一部のノズルを示す図、第3図はその使用状態を示す図、第4図ないし第6図は本発明の他の実施例の方法に使用する装置の斜視図、第7図は層流波形成手段として平面噴流装置を併用した例の断面図、第8図は他の平面噴流装置を併用した例の断面図、第9図イ、ロは平面浸漬手段として平面浸漬装置を併用した例の断面図、第10図、第11図はそれぞれ上記の外の他の実施例の方法に使用するはんだ付け装置の斜視図、第12図イ、ロ、ハは本発明に用いられる乱流波形成板の噴出口の形状の例を示す説明図、第13図はプリント基板にチツプ部品をはんだ付けした状態の説明図、第14図はその従来のはんだ付け装置を示す図、第15図は従来の他のはんだ付け装置を示す図、第16図は従来のさらに他のはんだ付け装置を示す図、第17図は第15図と第16図の装置を組み合わせたはんだ付け装置を示す図である。

図中、1は基板本体、2は回路パターン、3a~3eはチツプ部品、4、4’、4”、4〓ははんだ槽、5、5’、5”、5〓はノズル、6、6’、6”、6〓、6〓は乱流波形成板、7は噴出口、5”a、5〓a、5”b、5〓b、5〓cはノズル口、9は攪拌機、9’は噴流ポンプである。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

第6図

〈省略〉

第7図

〈省略〉

第8図

〈省略〉

第10図

〈省略〉

第11図

〈省略〉

第9図

〈省略〉

第12図

〈省略〉

第13図

〈省略〉

第14図

〈省略〉

第15図

〈省略〉

第16図

〈省略〉

第17図

〈省略〉

別紙 第一目録

一 製造者、販売者

日本電熱計器株式会社

二 製品名

日本電熱計器ジェミニSSはんだ付け装置LG型、RG型、RGL型、LGL型、LGC型

三 装置の構成

一次チャンバー10および二次チャンバー46を有し、両チャンバーには、一次噴流モータおよび二次噴流モータによる加圧手段を設けて溶融はんだを流動させるようにし、一次チャンバー10は整流板A22および整流板B23を介して多数のはんだ噴流口18(長さ約16mm×内径約14mm)を設けた一次吹口本体14を有し、さらに該一次吹口本体14の上部には、半円状のスイングノズル17をプリント基板の搬送方向と直交する方向に摺動可能に取り付け、スイングノズル17の切欠部25には吹口ノズル27を有し、吹口ノズル27の長手方向には比較的小さな長孔(長さ約12mm×内径約4mm)のハンダ噴流孔26多数を二列に千鳥状に設け、ハンダ噴流孔26はプリント基板の搬送方向に順行する方向および逆行する方向に交互に傾斜をつけた(隣り合う長孔の軸線は、約54-55度の角度で交差する)ものとし、コントロールボックス面上のスイング用モータ・オン・オフスイッチを操作することによりスイング用モータ32を駆動または停止しうるようにして、右スイング用モータの駆動によりスイングノズルがプリント基板の搬送方向と直交する方向に約10-12mmの距離を摺動往復移動するスイング機構を設け、二次チャンバー46にははんだを透過する多数の細孔を有する整流板53、およびスライド板55に対置する入側フォーマー54を有する二次吹口本体47を具備するはんだ付け装置

四 図面

A図面

A図面

一次チャンバー

〈省略〉

別紙 第二目録

はんだ槽に収容した溶融はんだを一次チャンバー10に設けた一次噴流モータによる加圧手段と二次チャンバー46に設けた二次噴流モータによる加圧手段とによって流動させ、一次チャンバーにおいて、溶融はんだを整流板A22および整流板B23を介して一次吹口本体14の多数のはんだ噴流口18(長さ約16mm×内径約14mm)から噴流させ、さらに該一次吹口本体14の上部に摺動可能に取付けた半円状のスイングノズル17を、スイング用モータ32を駆動することによりプリント基板の搬送方向と直交する方向に連続的に摺動往復移動(摺動距離約10-12mm)させながら、スイングノズル17の切欠部25に有する吹口ノズル27の長手方向に二列に千鳥状に多数設けられた比較的小さな長孔(長さ約12mm×内径約4mm)であってプリント基板の搬送方向に順行する方向および逆行する方向に交互に傾斜がつけられた(隣り合う長孔の軸線は約54-55度の角度で交差する)ハンダ噴流孔26から溶融はんだを山状に噴出させてこの山状の溶融はんだの峰を多数形成し、かつ前記吹口ノズルに対する溶融はんだの前記モータによる加圧手段による流動に基いて前記峰の位置、高さ、幅および数など峰の形状をたえず不規則に変動させて流動させるとともに前記スイングノズル17の摺動往復移動により前記峰を左右に平行移動させプリント基板とこれに搭載した電気部品のはんだ付け部に溶融はんだを供給する第一のはんだ付け工程と、二次チャンバーにおいて、整流板53を介してスライド板55と、これに対置する入側フォーマー54との間のスリットにより層流状態の波を形成する二次吹口本体47の溶融はんだによりプリント基板と電気部品の第一のはんだ付け工程によるはんだ付け部に再度はんだ付けを施す第二のはんだ付け工程を有するプリント基板のはんだ付け方法

別紙 第三目録

一 製造者、販売者

日本電熱計器株式会社

二 製品名

日本電熱計器ジェミニSSはんだ付け装置LG型、RG型、RGL型、LGL型、LGC型

三 装置の構成

一次チャンバー10および二次チャンバー46を有し、両チャンバーには、一次噴流モータおよび二次噴流モータによる加圧手段を設けて溶融はんだを流動させるようにし、一次チャンバー10は整流板A22および整流板B23を介して多数のはんだ噴流口18(長さ約16mm×内径約14mm)を設けた一次吹口本体14を有し、さらに該一次吹口本体14の上部には、半円状のスイングノズル17をプリント基板の搬送方向と直交する方向に摺動可能に取り付け、スイングノズル17の切欠部25には吹口ノズル27を有し、吹口ノズル27の長手方向には比較的小さな長孔(長さ約12mm×内径約4mm)のハンダ噴流孔26多数を二列に千鳥状に設け、ハンダ噴流孔26はプリント基板の搬送方向に順行する方向および逆行する方向に交互に傾斜をつけた(隣り合う長孔の軸線は、約54-55度の角度で交差する)ものとし、コントロールボックス面上のスイング用モータ・オン・オフスイッチを操作することによりスイング用モータ32を駆動または停止しうるようにして、右スイング用モータの駆動によりスイングノズルがプリント基板の搬送方向と直交する方向に約10-12mmの距離を摺動往復移動するスイング機構を設け、二次チャンバー46には

A図面

二次チャンバー

〈省略〉

はんだを透過する多数の細孔を有する整流板53、およびスライド板55に対置する入側フォーマー54を有する二次吹口本体47を具備するはんだ付け装置

四 図面

B図面

B図面

一次チャンバー

〈省略〉

二次チャンバー

〈省略〉

別紙 第四目録

はんだ槽に収容した溶融はんだを一次チャンバー10に設けた一次噴流モータによる加圧手段と二次チャンバー46に設けた二次噴流モータによる加圧手段とによって流動させ、一次チャンバーにおいて、溶融はんだを整流板A22および整流板B23を介して一次吹口本体14の多数のはんだ噴流口18(長さ約16mm×内径約14mm)から噴流させ、さらに該一次吹口本体14の上部に摺動可能に取付けた半円状のスイングノズル17を、スイング用モータ32を駆動することによりプリント基板の搬送方向と直交する方向に連続的に摺動往復移動(摺動距離約10-12mm)させながら、スイングノズル17の切欠部25に有する吹口ノズル27の長手方向に二列に千鳥状に多数設けられた比較的小さな長孔(長さ約12mm×内径約4mm)であってプリント基板の搬送方向に順行する方向および逆行する方向に交互に傾斜がつけられた(隣り合う長孔の軸線は約54-55度の角度で交差する)ハンダ噴流孔26から溶融はんだを山状に噴出させてこの山状の溶融はんだの峰を多数形成し、かつ前記吹口ノズルに対する溶融はんだの前記モータによる加圧手段による流動に基いて前記峰の位置、高さ、幅および数など峰の形状をたえず不規則に変動させて流動させるとともに前記スイングノズル17の摺動往復移動により前記峰を左右に平行移動させプリント基板とこれに搭載した電気部品のはんだ付け部に溶融はんだを供給する第一のはんだ付け工程と、二次チャンバーにおいて、整流板53を介してスライド板55と、これに対置する入側フォーマー54との間のスリットにより流速を可変とした平滑な流れを形成する二次吹口本体47の溶融はんだによりプリント基板と電気部品の第一のはんだ付け工程によるはんだ付け部に再度はんだ付けを施す第二のはんだ付け工程を有するプリント基板のはんだ付け方法

別紙 第五目録

はんだ槽に収容した溶融はんだを一次チャンバー10に設けた一次噴流モータによる加圧手段と二次チャンバー46に設けた二次噴流モータによる加圧手段とによって流動させ、一次チャンバーにおいて、溶融はんだを整流板A22および整流板B23を介して一次吹口本体14の多数のはんだ噴流口18(長さ約16mm×内径約14mm)から噴流させ、さらに該一次吹口本体14の上部に摺動可能に取付けた半円状のスイングノズル17を、スイング用モータ32を駆動することによりプリント基板の搬送方向と直交する方向に連続的に摺動往復移動(摺動距離約10-12mm)させながら、スイングノズル17の切欠部25に有する吹口ノズル27の長手方向に二列に千鳥状に多数設けられた比較的小さな長孔(長さ約12mm×内径約4mm)であってプリント基板の搬送方向に順行する方向および逆行する方向に交互に傾斜がつけられた(隣り合う長孔の軸線は約54-55度の角度で交差する)ハンダ噴流孔26から、整流板A22、整流板B23、はんだ噴流口18及びハンダ噴流孔26によって段階的に流速の大きさが整えられその向きが揃えられた溶融はんだを、山状に(すなわち、平らな部分より隆起するように)噴出させることにより、プリント基板とこれに搭載した電気部品のはんだ付け部に溶融はんだを供給する第一のはんだ付け工程と、二次チャンバーにおいて、整流板53を介してスライド板55と、これに対置する入側フォーマー54との間のスリットにより層流状態の波を形成する二次吹口本体47の溶融はんだによりプリント基板と電気部品の第一のはんだ付け工程によるはんだ付け部に再度はんだ付けを施す第二のはんだ付け工程を有するプリント基板のはんだ付け方法

別紙 第六目録

はんだ槽に収容した溶融はんだを一次チャンバー10に設けた一次噴流モータによる加圧手段と二次チャンバー46に設けた二次噴流モータによる加圧手段とによって流動させ、一次チャンバーにおいて、溶融はんだを整流板A22および整流板B23を介して一次吹口本体14の多数のはんだ噴流口18(長さ約16mm×内径約14mm)から噴流させ、さらに該一次吹口本体14の上部に摺動可能に取付けた半円状のスイングノズル17を、スイング用モータ32を駆動することによりプリント基板の搬送方向と直交する方向に連続的に摺動往復移動(摺動距離約10-12mm)させながら、スイングノズル17の切欠部25に有する吹口ノズル27の長手方向に二列に千鳥状に多数設けられた比較的小さな長孔(長さ約12mm×内径約4mm)であってプリント基板の搬送方向に順行する方向および逆行する方向に交互に傾斜がつけられた(隣り合う長孔の軸線は約54-55度の角度で交差する)ハンダ噴流孔26から、整流板A22、整流板B23、はんだ噴流口18およびハンダ噴流孔26によって段階的に流速の大きさが整えられその向きが揃えられた溶融はんだを、山状に(すなわち、平らな部分より隆起するように)噴出させることにより、プリント基板とこれに搭載した電気部品のはんだ付け部に溶融はんだを供給する第一のはんだ付け工程と、二次チャンバーにおいて、整流板53を介してスライド板55と、これに対置する入側フォーマー54との間のスリットにより、従来の滑らかな波すなわち層流状態の波からジェット噴流波までの無段階の波のいずれか形成する二次吹口本体47の溶融はんだにより、プリント基板と電気部品の第一のはんだ付け工程によるはんだ付け部に再度はんだ付けを施す第二のはんだ付け工程を有するプリント基板のはんだ付け方法

特許公報

〈省略〉

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